008 ベジタリアンという選択
ベジタリアン、と一口に言ってもいろいろなベジタリアンがいます。日本語では菜食主義とも言いますが、つまりは野菜を中心にした食事をするひとたちの総称です。野菜だけでなく卵や乳製品も食べる人がラクト・オヴォ・ベジタリアンで、卵は食べないけど乳製品は食べるという人はラクト・ベジタリアン、乳製品は食べないけど卵は食べるという人たちはオヴォ・ベジタリアン、肉や魚はもちろん、乳製品や卵など、動物性の食物を一切摂らない人をヴィーガンといいます。食事だけに限らず、動物を殺傷して生産する絹や革製品などの使用も避ける、避けない、の区別や、肉は食べないけど魚は食べるとか、五葷(にんにく、にら、らっきょう、ねぎ、たまねぎ)を摂らないベジタリアンなど、さらに細かく分類することができます。また、ベジタリアンの食事を選択する理由もさまざまで、宗教上の理由から、動物愛護から、健康のため、地球環境の保護のためなどいろいろです。さて、これらの理由を見て何か気づきませんか? そう。食べ物の選択は、その人の思想や考え方を表しています。「何を食べるか」ということは「どのように生きるか」と同じぐらいに重要なことなのです。
私も3年くらい前から菜食を実践し、2年くらい前からマクロビオティックを勉強しています。今では上記の分類で言うところのヴィーガンで、動物性のものは一切食べていません。「肉も魚も卵も乳製品も食べないなんて、一体何食べてるの?」と驚かれます。でも、食べるものはたくさんあるのです。野菜はもちろん、穀類、海藻、豆類などです。この食事法を始めてみて実感したことは、いかに私たちは食べ物の影響を受けているかということです。食事を変えて、毎年春先になると悩まされていた花粉症が軽くなり、免疫力が上がって風邪をひかなくなりました。肉や魚を食べていたときよりもからだが楽で、ちょっとした不調に気づくことができるので、風邪をこじらせたり、疲れすぎて寝込んだりする前に食事で予防することができます。また、気持ちも落ち着いて、いつも穏やかな気持ちでいられます。たとえば、肉食動物と草食動物の生態を思い浮かべて比べてみてください。肉食のライオンは獰猛で攻撃的ですが、草食のゾウは、穏やかで平和的な動物です。食べるものによってその生態が異なるのです。”You are what you eat”という言葉があります。「あなたはあなたが食べているものでできている」というその言葉の通り、食べ物を選ぶということは、まさに生き方を選ぶことなのです。
ではなぜベジタリアンの食事を選ぶ必要があるのでしょうか。肉や魚は食べてはいけないのでしょうか。「どうしてベジタリアンになったの?」私も、久しぶりに会う友人や、知り合って初めて一緒に食事をする人には必ずと言っていいほどそう聞かれます。それぐらい、日本ではまだベジタリアンは多くないし、珍しいことなのだと思います。だって世の中にはおいしいものがたくさんあります。肉料理も魚料理も食べられないなんてモッタイナイ、という考え方。一方で、食事を選ぶ事などできない、貧困や食料不足に苦しむ国や地域だってあります。菜食主義とは、選り好みの贅沢でしょうか。菜食主義の人たちは、それぞれいろいろな理由で菜食を選択しているので、「どうして動物性の食物を食べないのか」その答えはひとつではありません。動物性のものを排する理由を挙げる代わりに、菜食の数多くの利点のうち、主なものを紹介しましょう。
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1. 動物を苦しめない
野菜や穀物が畑でどのように栽培され、どんな過程を経て私たちの食卓に並ぶかは想像がつきやすいと思います。ところが、食肉となる動物たちが生まれてからどのように日々を過ごして、私たちの食卓へやって来るかは、もしかしたら想像したくないかもしれません。切り身の肉が畑に実るわけではないのです。最近では工業的な生産のしかた(人工授精や抗生物質の投与、狭い囲いの中での飼育など)を見直す考えや、法律で規制する動きもありますが、肉を食べる以上は、肉になるために生まれてくる動物たちのことを何も知らないわけにはいきません。肉に限らず魚にしても同じです。どんな小魚であってもひとつの命です。菜食の場合は、植物ももちろん大切な命ですが、大地と太陽のめぐみが生み出した命は、苦しまずに私たちの食卓に運ばれてきます。そして、植物を育てることは、その土地と深くつき合う必要があり、私たちを地球の自然と結びつけてくれる仕事なのです。 |
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2. 地球環境を汚さない
日本の食料自給率はだいたい40%で、世界の先進国の中では最下位。そして、まったく不名誉なことに、日本は世界で最も残飯を出している国です。また、食肉の自給率はだいたい60%前後ですが、その家畜のための飼料の自給率は30%くらいです。家畜のための飼料を燃料を使って輸入するより、穀物や野菜を国内で生産したほうが地球環境のためにはいいという考えもあります。また、牛のげっぷに含まれるメタンガスは温室効果ガスとされています。地球の生態系の許容範囲を無視して食肉用の家畜を生産しつづけていくと、さまざまな問題が生じてくるのです。その分、畑で植物を育てれば、植物の緑が二酸化炭素を抑え、土地を豊かにしてくれます。農業によって畜産用の飼料の自給率が上がれば、輸入用の燃料も減らせます。 |
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3. 健康な心身をつくる
もともと人間の腸の長さや歯や顎のつくりは、肉食には適していないと言う説があります。実際に、動物性の食物は体内で毒素をつくりやすいので早く消化したほうがいいのですが、人間の胃酸の濃度は肉食動物の胃酸の濃度の20分の1と低く、他の肉食動物の腸の長さ(体長の約4〜6倍)に比べて人間の腸は長く(体長の約12倍)、そのため消化に時間がかかり毒素を排出しにくいので体内にとどまり、さまざまな生活習慣病の要因となるという考え方です。日本には「身土不二」といって、身体と土は元をたどれば同じもの、という考え方があります。体も作物も同じ土(環境)で育つわけですから、自分が住む地域で育った健康な旬の作物を食べているのが、その環境への適応能力をいちばん高めるのです。マクロビオティックの考え方では、すべてのものに陰陽があり、極端に陽性の動物性食物を摂ると、反対に極端に陰性の甘いものやアルコール、さまざまな食品添加物を欲してしまい、陰陽のバランスが崩れていくことが本来の生理機能が低下していくことが病気の原因だとしています。ただ、単純に動物性のタンパク質の摂取をやめたからと言って病気にならないかというとそうではなく、バランスのいい食事と運動と、ストレスのない暮らし…究極的には自分自身の気持ちが健康でいることがいちばん大切なのだと思います。 |
このように、菜食の利点はたくさんあります。だからと言って、すぐに肉や魚を食べるのをやめるわけにはいかないでしょう。それにただ菜食にすればいいかと言うと、そう簡単な話でもなく、栄養素のバランスのこと、有機栽培の植物のことや食品添加物のこと、「何を食べたらいいのか」の問いには、いろいろな視点から見たいろいろな考え方があるのです。ただ、自信を持って言えることは、今あなたの食卓にある食材がどのように作られて、どのように運ばれてきたかをきちんと想像したほうがいい、ということと、その食べたものがあなた自身の心と体を作っているということです。食べ物を選ぶことはその食べ物を作る産業のしくみを変えることにダイレクトにつながっています。「ミートフリーマンデー(「週に一日は肉を食べない生活を」)」という世界的な呼びかけがあります。まず週に一度でも試してみて、体の変化を観察してみるのもおもしろいかもしれません。
ところで、ベジタリアンの人たちは、けっして肉や魚を食べることを非難しているのではありません。おいしい肉を食べて健康でしあわせなら、それを邪魔するつもりもありません。ただ「肉を食べる」という選択と同じように「肉を食べない」や「菜食」という選択があっていいと思います。東京は国際都市と言われながら、ベジタリアンが外食できる店が少なすぎるように思います。欧米の主要都市では、ステーキハウスにもベジタリアンメニューがあったりするのに。ベジタリアンとそうでないひとが普通に食卓を囲める場所が少ないのは残念なことです。食べ方や生き方にはいろいろな考え方があってあたり前なのです。肉も魚も植物も、粗末に食べたりしないこと、感謝しておいしく頂くというのは共通なのですから。
参考映画
『いのちの食べかた』http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/
『未来の食卓』http://www.uplink.co.jp/shokutaku/





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