010 ハワイの自然が教えてくれること
ハワイ島キラウエア火山。いまも活動している火山で、訪れるたびに違う景色を見せてくれる大きな自然。黒々と隆起した大地と、あちこちから噴き出る白い煙の蒸気。今立っている足元のその奥深く、大地の底から湧きあがる熱を感じます。ここへ来ると、地球が生きていることを実感します。ハワイ諸島の地下深部には、ホットスポットと言われる溶岩のわきだし口があり、このホットスポットから噴き出された溶岩が海底に積み重なり、海上に姿をあらわして、これがやがて島になります。新しい島ほど面積が広くて標高も高く(現在のハワイ島の状態)、火山地形が失われた古い島ほど崖や谷が刻まれ浸食が進みます(カウアイ島の状態)。ホットスポットの位置は動きませんが、太平洋プレートに乗って島が移動しているので、現在のホットスポットはハワイ島の南東ロイヒ火山あたりにあり、数万年後にはここに新しい島ができるかもしれないそうです。
地球の呼吸そのものである火山活動。その自然のダイナミックな営みを間近に見ることができる、世界でも数少ない火山がキラウエア火山(ハワイ火山国立公園)です。ここへ訪れるのは4回目になりますが、とても一日では周りきれない広大な上に見どころがたくさんありすぎて、いまだにすべての場所を周りきれていません。その中でも一番行ってみたかったのが、ぽっかり空いたクレーターの真ん中を歩いて横断できるキラウエア・イキ・クレーターのハイキングです。鬱蒼としたジャングルを抜けてクレーターに降り、蒸気を上げる火口を横目にごつごつした溶岩の上を歩いて、再びハイキングのスタート地点に戻ってくるまで6.4kmゆっくり3時間のコースです。
ハイキングのスタート地点の駐車場から溶岩に降り立つまで、ゆっくり降りたら1時間くらい。駐車場から見下ろすクレーターの地面までは約120mで、およそ40階建てのビルの高さくらいの深さ。1959年の噴火前はこの倍の深さがあったそうです。クレーターに降りるまでの道のりは、ハワイ固有植物をはじめとした熱帯植物と鳥の歌声をガイドにハイキングです。肥沃で湿った土の匂いと森の緑に囲まれながらも、眼下には黒々とした溶岩の大地と蒸気。まさに多様な生態系と自然が作り出した地球の歴史が目の前に広がっています。

クレーターの地面に近づくほどに、むっとした熱気が迫ってきます。これは太陽の熱ではなく、大地の熱です。溶岩の大地に人工的なものを作らないために、ハイカーのためのコースサインは溶岩のかけらを積み上げたもの。これをアフ(Ahu)と呼び、ハイカーたちが道をそれないように大切な目印となっています。このアフを壊したり、新しいアフを勝手に作ってしまうことは厳禁です。そしてこの大地。一見すると黒々とした溶岩ですが、実はキラキラ輝いています。よく見ると、淡い緑色に輝く天然石のペリドットがたくさん埋まっています。大粒のペリドットが転がっていることもあり、思わず拾って持ちかえりたいところですが、ペレの怒りを買いますので我慢です。この溶岩の大地に寝そべって、地熱を体全体で感じると、なんと気持ちよかったことか!




ところで、ハワイの火山がこうして観光スポットになりえるのは、この火山が「おとなしい」部類の火山だからだということです。なんでも溶岩にシリコン含量が少ないために、粘度が低く流動性が高いのでガスが放出されやすく、爆発力が弱いのだそう。とは言え、このキラウエア・イキで1959年に起こった噴火は激しいもので、噴き上げられた溶岩は地上580mに達し、墳石丘を形成しながら周囲の森林を埋め尽くしてしまいました。相手は人間の尺度を超えた大自然です。油断は禁物なのですが、今でも火山の噴火があると人々は避難するどころか見物のために火山に集まってきます。
ハワイの火山といえば、再生と破壊の象徴、女神ペレに触れないわけにはいきません。ペレに関してはいろいろな逸話があり、火山で溶岩のかけらなどを持ちかえると呪われるとか、キラウエア火山に通じる国道で老婆がヒッチハイクをしていたらそれはペレの化身なので車を止めて乗せてあげなくてはならないとか、道端でマッチを貸してくれと言ってくるとか。やきもちやきで癇癪持ち、恋多き女神だと言われるペレですが、その生まれはタヒチで、カヌーでハワイにやってきたとされています。最初に上陸したのはカウアイ島。姉の夫を誘惑した罪でカウアイ島を追われ、オアフ島に逃れますがそこも追われ、マウイ島のハナで戦いに敗れて肉体は滅びます。霊的な存在となってハワイ島に移り住み、現在ではハレマウマウ(ハワイ語で「永遠に燃える火の家」の意味)火口に住んでいると言われています。タヒチから来たペレが辿ったとされるカウアイ島からハワイ島への道筋は、ハワイ諸島の各島が海上に隆起して島として成立した順番と見事に一致しています。科学で解明されたハワイ諸島の誕生の歴史と、科学以前の神話の内容が一致しているというのは何とも不思議です。今でも、度重なる噴火はペレの怒りと捉えられ、人々はこの神聖な場所に祈りを捧げています。


青く美しい海と、南国の甘い風。のんびりとした時間。これもハワイの魅力のひとつですが、ハワイ島のキラウエア火山にある自然は、ひとを癒したり包みこんだりする優しい顔とは違います。強くパワフルで、人間の尺度をはるかに超えた大いなる存在です。そしてこの土地には大自然に寄り添って日々を懸命に暮らす人たちが多くいます。ここに来ると、私たち人間は、けっして思い違いをしてはいけないんだと知らされます。人間が自然を支配するのではなく、自然が作り出す恵みに感謝して、そのサイクルに寄り添って生きることをていねいに営んでいかなくてはいけない。これからどう生きていったらいいのか、本当に必要なものは何なのか、ペレに問いただされているような気がします。その答えが見つかるまで、まだこれから何度もこの場所を訪れることになりそうです。
〈参考文献〉
『The National Geographic Travelerハワイ』日経ナショナルジオグラフィック社
イザベラ・バード著 近藤純夫訳『イザベラ・バードのハワイ紀行』平凡社
清水善和著『ハワイの自然』古今書院
ヤナ著 ケイコ・フォレスト訳『ヤナの森の生活』WAVE出版


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